占い師が教える幸せになる恋愛論｜不倫／浮気／復縁の悩み解消コラム

今だから言えるが、初めて会った時の彼女は野暮ったかった。私なら部屋着でも着ないようなトレーナーとお父さんが履いているようなチノパン。無造作に束ねた髪。ボソボソと自己紹介する姿が印象に残っている。
そんな彼女が変わり始めたのは半年が経過したあたりからだ。スーパーの片隅で売っているようなスニーカーがラインストーンの施されたフラットシューズになっていた。髪の毛だってかわいらしいシュシュで飾られているし、いつの間にかワンピースを着るようになっている。周囲がオシャレな女の子ばかりだから少しずつ影響されたのかな・・・。なんて思っていたけれど、ある日ピンと来た。彼女を変えたのはアイツだ。社内でアイツの隣の席になってから彼女は急激に変化し始めた。彼女はアイツに恋をしているに違いない・・・・。



女は恋をすると魔法にかかったように綺麗になる。言うまでも無く真実である。相手に気に入られるために、相手にも自分と同じように恋してもらうために必死に努力をする。何気ない彼の一言に大喜びし、そして傷つく。神社仏閣を巡っては恋の成就を願い、夜空を見上げては名もなき星にも彼の心が自分の方に傾くように祈る。その心は純粋で美しい。

突然彼女から呼び出され、占いを依頼されたのは２ヶ月後だった。平日の夜の喫茶店。一番奥のボックス席。周囲に客はいなかった。「好きな人がいます。彼の気持ちを教えてください。」とハッキリとした口調で彼女は言った。私はゆっくりとカードをシャッフルし、展開した。９枚のタロットカード。中心には「愚者」が楽しそうに踊っていた。「ねえ、知ってるよね？あの男には彼女がいるってことをさ。結婚するらしいって噂、この間聞いたばっかりだよね？」愚者は笑って私に言った。彼女に何を伝えるべきか。決断をしなければならなかった。愚者に問いかけた「ねぇ、彼女がアイツに恋をすることで人生は彼女に何を学ばせようとしているの？」少しの沈黙の後、「逃げなくてもいいんだよ。ほら、彼女はこんなに素敵になった。彼女が知りたいのは真実だ。」愚者はまだ笑っていた。その瞬間、彼女が口を開いた「ごめんなさい。私が好きなのは●●さんです。婚約者がいるって本当ですか？」決断をしたのは私ではなく彼女のほうだった。

それから半年、アイツは学生時代から付き合っていた小柄な女と結婚した。彼女の恋は実らなかった。女性社員の数人が暫くは落ち込んだ様子だった。

今も「相手の気持ちを教えてください」と多くの方から相談をいただく。自分がどう思われているのか。恋をする誰もが知りたいと思う疑問。当然、良い結果ばかりが出るわけではない。中にはお客様が望んではいないだろうと推測できるカードが出ることだってある。どのような結果が出たとしても私は言葉を選んできちんと伝える。遠慮して結果を捻じ曲げるようなことはしない。そして、こう付け加える。「今回の結果で相手の気持ちがわかったからとと言って恋を諦めるようなことはしないでください。」と。私はこの一言でお客様が本当の恋をしている人なのか、そうではない人なのかを問うている側面がある。傷つくことを恐れて逃げてしまうというのなら、それは最初から恋ではなく鏡に映った恋する自分に恋をする「恋愛ごっこ」でしかない。占いの結果以外のからの部分でも、相手の言葉や態度等から恋が実らない確信を持った時に取る行動として「身を引く」と「恋を諦める」「恋を止める」は似て非なるものだ。苦しみながらも恋心の蝋燭がゆっくりと燃え尽きるのを待つのが「身を引く」であり、炎を自分で吹き消してしまうのが自分の都合で恋を諦めたり止めたりする恋愛ごっこである。私の周りにもよく恋愛ごっこを楽しんでいる人たちがいたような気がする。相手から振られそうになったから先に振ったとか、相手に好きな人がいるらしいから好きになるのを止めて他の人にするとか・・・・。若いころの自分を振り返っても心当たりが無いわけではない。もしかしたら、恋をしていると思っている人の中にはかなりの数の恋愛ごっこが含まれているのかもしれない。自分勝手な恋愛ごっこでは恋の魔法はかからない。

誰かに恋をして、それが実れば幸せだとか、実らないから不幸だとかそんな単純な話ではない。恋が実らないからこそ学べることがあるし、恋をすることで初めて発見する自分がいる。努力できる自分と会える。強くなれる。それを彼女が教えてくれた。あの日の彼女は凛として現実を受け止め、身を引いた。そして、彼女はあの決断の日よりも今ずっと綺麗になった。
本当の恋をした彼女には魔法がかかった。